洋上風力発電は風車を支える基礎構造の形式により、海底に基礎を設置する「着床式」と、基礎を海に浮かべる「浮体式」に大別される。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が実施した調査※1では、日本近海で洋上風力発電が導入可能な着床式と浮体式を比較すると、浮体式は着床式の約5倍の導入可能面積を有している。しかし、世界的に商用化が進んでいる浮体式の1つであるスパー型※2は100m程度の水深が必要であるため、水深50~100mの範囲で着床式に対してコスト競争力のある浮体式の開発が課題となっていた。こうした背景の下、NEDOでは2014年度から、水深50~100mで適用可能な低コストの次世代浮体式洋上風力発電システム実証研究を開始し、実証海域の選定、浮体の設計、製造などを行い、2018年6月にバージ型と呼ばれる小型浮体※3を製作、今般、NEDOと丸紅(株)などのコンソーシアム(日立造船(株)、(株)グローカル、エコ・パワー(株)、東京大学、九電みらいエナジー(株))は、このバージ型浮体にコンパクトな2枚羽風車を搭載した日本初のバージ型浮体式洋上風力発電システム実証機を完成させた。
今後、北九州市沖15km、水深50mの設置海域まで曳航し、係留、電力ケーブルを接続した後、試験運転を行い、今秋から2021年度までの予定で実証運転を開始し、発電した電力は九州電力の系統に接続する予定。
本システムは、鋼製のバージ型浮体構造物にコンパクトな2枚翼アップウィンド型3MW風車を搭載しており、スタッドレスチェーン※4と超高把駐力アンカー※5の組み合わせによる計9本の係留システムで係留し、厳しい気象・海象条件においてもシステムの安全性が確保されるよう設計を行っている。
本実証機の開発において、丸紅がコスト分析、関係機関との調整、日立造船が浮体設計、製作、設置工事、グローカルが風車選定および係留システムの開発、エコ・パワーが環境影響評価、東京大学が本システムの性能評価およびコミュニケーション活動※6、九電みらいエナジーが 系統連系協議および電力品質評価についてそれぞれ担当した。
今後、バージ型浮体式洋上風力発電システム実証機を北九州市沖合へ設置後、2021年度までの予定で実証運転を実施する。実証運転中は、計測データによる設計検証や遠隔操作型の無人潜水機を使用した浮体や係留システムの効率的な保守管理方法の技術開発を行い、低コストかつコンパクトな浮体式洋上風力発電システムの技術を確立する。
※1 NEDOが実施した調査
2011年度成果報告書 浮体式洋上風力発電に関する基礎調査。日本の海域で離岸距離30km、水深200mまでといった条件でポテンシャル調査を行ったところ、着床式(水深50mまで)の導入可能面積は約1万4千km2、浮体式(水深50m以深)導入可能面積は約5倍の7万7千km2との結果を得た。ただし、これは社会的制約条件を考慮していない。
※2 スパー型
浮力体を垂直方向に延長することによって水線面を小さくして浮力体の大部分を水没させる形式。
※3 バージ型浮体
浮体構造物の水中に浸かっている部分の深さが浅く、浅い水深でも設置可能な浮体。
※4 スタッドレスチェーン
チェーンを構成する1つひとつのリンク(輪っか)において、スタッドと呼ばれるリンク内側の棒状構造物を鋼材の強度を高めることで排除し、チェーン重量を抑えつつ浮体係留の安全性を確保できる、オフショア用の係留チェーン。
※5 把駐力アンカー
アンカー(錨)が海底土質との間で生む抵抗力(把駐力)により、浮体の位置を保持するアンカー。アンカー自体の重さよりも大きな把駐力を発揮する場合、その程度により高把駐力アンカー、超高把駐力アンカーと呼ばれる。
※6 コミュニケーション活動
研究の成果と洋上風力発電事業の意義を広く社会に発信することを目的として、小学校への出前授業や北九州次世代エネルギーパークへの実証機模型の常設展示を実施している。
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【風力発電】NEDO、丸紅、日立造船、グローカル、エコ・パワー、東京大学、九電みらいエナジー、日本初のバージ型浮体式洋上システム実証機完成。北九州市沖に設置後、実証運転開始
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