三井化学(株)は、水生生物の産卵場所や幼稚仔魚の成育の場となるアマモ場の再生のため、和歌山工業高等専門学校の楠部真崇准教授が進める、和歌山県方杭(かたくい)海岸でのフィールド試験において、バイオセメントの原料の1つとして使用する尿素を提供するとともに、バイオセメントを固化する際に活躍する微生物の大量培養を、同社の培養技術を使って行った。
楠部准教授たちが開発したバイオセメントは、微生物の尿素の代謝を利用して砂を固化させたもので、海水中で徐々に崩壊する性質を有する。アマモ場を形成したい海底の砂やそこで採取した微生物を使ったバイオセメントでアマモ種子を埋包して海底に沈設すれば、アマモの成長に合わせてセメントが崩壊し、元の環境に戻る。そのため、外部環境から異物を持ち込まず、シンプルで環境負荷をかけない海洋環境保全を実現することができる。
微生物の大量培養に使用されたバイオエンジベンチは、三井化学茂原研究・開発センター(千葉県茂原市)にあるパイロットレベルの培養設備で、通常はバイオ関連製品の開発のスケールアップを検討するために使用されている。
アマモは、海中の有機物の無機化や海中へ酸素を供給する役割を持つ海草で、その群生地は、水生生物の産卵場所や幼稚仔魚の成育の場となる。しかし、経済成長に伴う環境汚染や埋立により、この30年で世界中の海洋のアマモ場が減少し1)、日本においては1960から1990年代にかけて約3割が減少 2)、特に瀬戸内海では、アマモ場の7割が減少している 3)。
アマモ場の再生には、従来、生分解性プラスチック容器を用いた植え付けやアマモ種子を織り込んだ麻シートの沈設などが行われてきたが、いずれも海洋ゴミを増加させる可能性があり、さらなる技術開発の必要性が求められていた。
2019年12月、楠部准教授と、和歌山工業高等専門学校の学生たちの手によって開始されたフィールド試験は、順調にいけば2月に出芽が観察される。今後数年をかけて定点観測と海水採取を行い、アマモ場の拡大と水生生物の回復と維持を評価していく予定。また、三井化学のバイオエンジベンチで大量培養された微生物は今後のフィールド試験への利用を視野にいれ、和歌山高専にて保管されている。
*参考資料と出典
1)菊池泰二,世界における海草藻場研究の現状,ベントス研連誌, pp.1 21 (1974).
2)環境省自然環境局生物多様性センター・自然環境保全調査「干潟・藻場・サンゴ礁調査」
3)環境省「瀬戸内海干潟実態調査報告書」
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【バイオセメント】三井化学、尿素と微生物培養技術でアマモ場再生を支援
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